社長達のArk実況プレイを戦記っぽく書いた二次創作物。
大体は本編に寄せていますが、各種変更・誇張表現などを交えています。
事実関係は他視点含めた配信をご確認ください。
なお第1章第1話と振ってはいますがどこまで続くかは筆者の気力と本編の展開次第です。(少なくとも水同盟締結ぐらいまでは書きたいです)
(次の話)
(社視点、チャイカ視点)
Ark。それは豊かかつ容赦の無い自然を湛えた生ける箱舟。
にじさんじサーバー、マップ「アイランド」——恐竜達が闊歩するこの島に、新たに1人の人間が降り立った。
その名は加賀美ハヤト。後に"戦国Ark"そのものと呼ばれる男である。
にじさんじARK戦争 第1章第1話『アルファスレイヤーズ』
この島に於いて、人間は一位二位を争う弱者である。身を守る毛皮も獲物を引き裂く爪や牙も無く、巨躯にも膂力にも恵まれず足も遅い。だが彼らには頭脳と器用な手、左腕に埋め込まれた不可思議な機械を有していた。
これらを駆使し、島に降り立った人々は思い思いに恐竜を捕らえ、住居を建設し平和に生活していた。一心不乱に己の技術を高める者も居たが、この時はまだ脅威と言えば恐竜達の爪と牙であった。しかし不穏な空気は最初から用意されていたのである。
いずれ来たる"マップ変更(リセット)"、それに伴う"終焉の戦争(ラグナロク)"。
現在は人間同士が手を取り合い自然に対抗していたが、いずれは人類同士が武器と恐竜を用いて争うようになるだろう。
この日この地で後に「アラサートライブ」と呼ばれる絆を結び、義兄弟の契りを交わした加賀美と社築、花畑チャイカはそれを知っていた。
しかし加賀美には野望があった。
ただ座して終焉の日を待ち、用意された争いを貪るのが男だろうか? 平穏を愛する者ならばそれも良かろう。可愛らしい生物達を愛で、自分の思うがままに城を建て、ちょっとした冒険に繰り出す生活も悪くない。
だが加賀美はそうではなかった。自らが後発であることを知りながら、誰よりも早い開戦を願っていた。
この島に戦乱を齎す。それが彼の望みであった。
その為に選んだ最初の拠点は、入江に程近い崖の上である。
戦闘に於ける高所の利は最早説明するべくもない。眼下に小トライブや単独行動者の建物を望み、やや遠方には後に"四皇"と呼ばれることとなる夜見れな・渋谷ハジメ・叶・本間ひまわりの拠点が聳えるその場所は、加賀美達が想定する以上に良い土地であった。
無論、利点は有事関係だけではない。
「プテラノドンで一斉に飛び立ったらカッコイイ」
野望はあれど知識の乏しい当時の彼らは無邪気な少年のようであった。
彼らは粗末な石の土台を配置し、その上にベッドを置いた。辺りのベリーを摘んで食料とし、喉が乾けば丘の下までわざわざ下りて水を飲んだ。この原始的な生活の次の一歩は、通常ならば恐竜のテイムである。即座にプテラノドンを捕らえるのは困難だとしても、パラサウロロフス等温厚な草食恐竜をテイムすることで素材の採取効率は大幅に増加する。
しかしここでこの島に於ける、住民と野生生物以外の重要な存在も語らねばならない。それが"視聴者(リスナー)"である。
まず転機を生んだのは飲み友(社リスナー)であった。こんな物も作れるのだと、そっと社へ囁く。
「……バリスタ作れるってよ!」
「作りましょう!」
斯くてこのトライブの第一目標はバリスタ建造となった。
だがバリスタには膨大な鉄が必要である。原料となる金属鉱石は重く、多数の収集を行うには遠方の山に行くか、この付近には生息しない恐竜が必要である。
よって原始人から数歩進んだ程度の彼らにとって、まず重要なのは自身らの居住空間を整備であった。それが無ければ待っているのは死である。
そしてその中でも生死に直結しているのが水であった。
前述の通り、彼らの拠点は崖上にある。水を飲むにはいちいち入江まで下り、再度拠点へ斜面を登る必要があった。この時点で作れる水を運ぶ容器は、時間経過と共に中身が漏れていく粗悪品である。食料は付近で取れるにしても、飲み水問題の解決は急務であった。
よって加賀美は雨水を貯める貯水槽を作成し拠点の脇に置いた。更に社は崖下へ直接行き来出来る梯子を建設した。これで雨さえ降れば一定期間は貯水槽から水が飲め、水が切れている際は斜面を経由することなく梯子を使い最短距離で水辺へ行き来出来るようになった。
チャイカが壁を作り建物の体を為した拠点も含めて、彼らは初めての大仕事の出来栄えに満足した。これでは飲み水問題の解決には不十分であると、まだこの島の住人として幼い彼らは気付いていなかったのである。
更に彼らは「罠」の存在を知る。
生物をテイムする際、多くは不利な状況と分かるや逃走してしまう。或いは凶暴な恐竜であれば返り討ちに遭ってしまう。それを避けるべく、生物は出られないが人間や攻撃は通過出来る檻のような建造物を作って作成するのが常套手段である。
社とチャイカはそれを拠点の前に作成した。オーソドックスな石のドア枠と木のスロープで出来た建築罠である。その間加賀美は麻酔矢を製造しテイムに備えた。
これを利用し、最初に捕らえたのは奇しくも3本の角を持つ草食恐竜・トリケラトプスであった。計3匹捕らえた恐竜はオルテガ、ヤザン、リック・ドムと名付けられ、3人がそれぞれ1匹を連れることとなった。
更に森の方へ向かっていた社は、奇妙に白く光る恐竜を発見する。
「ゾイド! ゾイドいる!!」
Tek恐竜・パラサウロロフスであった。それは全身が機械で出来た希少な種であるが、恐竜+メカという存在に三十路の男子が食い付かない筈が無かった。
必ず捕まえると意気込みボーラを投げ、駆け付けた加賀美の麻酔矢により巨体が倒れる。石ではなくベリーを与えられた恐竜は無事に手懐けられ、荷電粒子砲という強力な名を授かった。
歓喜に沸く3人だったが、この地では油断は禁物である。彼らがこの島から離れている間、野生の恐竜にテイムされた者達が襲われてしまうかもしれない。一旦罠の中に入れておこうと準備をしていた矢先のことだった。
「やばい! 来てる!」
チャイカと恐竜の背後に迫る赤い影。アルファ・カルノタウロスの襲来であった。
α(アルファ)種とは野生の恐竜の中でも特に強靭な個体であり、テイムも出来なければ今の加賀美達では間違っても倒すことなど出来ない上位種である。この事態が発生する以前から遠方を歩いている姿が確認されており、装備を全て置いた社が吶喊、拠点から引き離そうかと相談していた矢先の出来事だった。
ただでさえ巨大な肉食恐竜の前に、人間は無力である。チャイカの体は空中に放り投げられ肉塊と化し、社もまた瞬時に死す。主人を救うべく果敢に攻撃しに行ったオルテガとリック・ドムも無残に屠られた。
加賀美の目の前でトリケラトプスを食らうアルファはまさに悪魔の如き脅威だった。呆然とする中、荷電粒子砲もまた暴君へ挑む。一時はアルファを拠点から引き離し、加賀美もまたボウガンで応戦するも戦果は言うまでもない。
3人の悲鳴と慟哭が木霊する中、加賀美もまた地に伏し、恐竜達は罠の中に入っていたヤザン1匹を除き全滅していた。トリケラトプス達を捕獲してから、僅か数十分内の出来事である。
この事態を重く見た渋谷ハジメと本間ひまわりがアルファの誘導と討伐へと動くが、アラサートライブにとっては時既に遅かった。ひまわりのSOSに叶が呼応、白熱の戦闘をプテラノドンに乗ったシェリン・バーガンディが撮影・実況するという手に汗握る展開も、加賀美達からは遠い地で起きる絵空事のようだった。やがて叶の遠距離射撃により、凶悪な暴君は自らが屠った者達と同じ肉塊(特に霜降り肉)へと化した。
だがこれは加賀美達にとって吉報ではなかった。自らの恐竜を守ることも、彼らの仇すらも討つことが出来なかった無力な男達は大いに嘆き、そして同時に残ったヤザンの前で再戦を誓う。
この島からα種を駆逐する。その為に力を付け、必ず復讐を成し遂げる。
『アルファスレイヤーズ』誕生の瞬間であった。
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