VtL後、SMC組が3人揃って舞台に立ってほしいという衝動で浮かんだ話。
※詩のようなそうでないような
※短い
※全ては作者の願望です
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「いいなぁ」
いつの間にか、そんな言葉が溢れていた。
サイリウム輝く客席。湧き上がる歓声と真にリアルタイムのコール&レスポンス。眩いレーザーライト。跳ね回る3Dの身体。巨大スピーカーから響く音、そして歌声。
その動画を見てふと漏れた感想には様々な感情が篭る。
彼ら彼女らが大好きだった。ずっと前から応援していた。このような場を見られるだけでも嬉しかった。だが出来ればもっと近くで見たかった。願わくば客席で、舞台袖で、控室で、或いは——
「行きたいですか?」
いつの間にか、そんな問いが向けられていた。
聞かれていたのかと驚いて、それから曖昧に言葉を濁した。行く、の意味は単純に現場に赴くこと指してはいないだろう、この男の場合。
彼は舞台に立つ側の人間だ。多くの努力を重ねて、様々な準備を進めて、ベスト中のベストを見せようとするプロフェッショナルだ。
そんな人物を前にして気軽に願望を述べてはいけない。幾らポンだなんだと言われてもそれぐらいの分別は持っているし、不用意に我儘を言う程子供でも無いし、先に進んでいる大人に泣いて縋って足を止めて貰うなんて真っ平ごめんだ。
だから比定する。否定しなければならない。あくまで見る側としれ行きたいだけだと。
「行こうよ、冬雪!」
いつの間にか、そんな声が手を引いていた。
彼女だって分野は違えど彼と同じぐらいの活躍を見せている。先に進んでいるのは変わらないというのに、にこにこと楽しげに笑いながら、わざわざ駆け戻って来ると手を取って引っ張って行こうとする。
断ることも出来るだろう。きちんと言えば彼らは無理強いはしない。
だがもしも。もしも願うことが許されるならば。
「……本当に、いいの?」
「大丈夫だよーぅ、インタビュアーなんて夜見も出来たぐらいだし!」
「え、そっちなんですか? 私てっきり歌うのかなと」
「歌?! 冬雪と夜見でデュエットですか?! はーそりゃーてぇてぇなぁ! てぇてぇ!」
「えっあっ……はいそうですね、声質的には確かにそれがベストかも……しれない……」
「あはははっ、冗談ですよしゃちょー、しゃちょーも裏声で入ってください! 高音助かるーってリスナーに言われますよ!」
「……はい……」
「そこで従うんかい」
相変わらずコメディのような応酬に葉加瀬は思わずツッコんでしまい、加賀美と夜見が弾かれたように笑う。
加賀美が音楽に手を抜かないことを知っている。夜見も本気を出せば相当の実力者であることも知っている。2人に並び立つなど烏滸がましいと言う者が居るかもしれない。身の程を知れと呪詛を向ける者が居ないとも限らない。
だがそれと同じぐらい、望んでくれる人達が居ることも知っている。
やりたいことをやろう。楽しいことだけをやろう。とてもとても大変なことでも、やって良かったと思えることをしよう。
「——行きたい」
「じゃあ、行きましょうか」
「よっしゃあ、ごーごー!!」
さも当たり前のように笑う3人が進む先にあるのは如何なる虹か。
辿り着くのがいつになるかも分かりはしないが、その日が来ることを願う者が居る限り、夢は閉ざされることは無い。