サイコパスバイオレンス社とその被害者加賀美
〜SMC組てぇてぇを添えて〜
※R15・強めの妄想
※社→加への暴力・加の嘔吐表現あり
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「——ふざけてんのかテメェ!!」
「……ッ!」
裂帛。反射的に掲げた手。鈍い音。冷たい液体。一拍置いて、ガシャンとガラスの割れる音。
思わず腰が引けるも立ち上がるより早く、重い足音が2歩近付く。そのまま胸倉を掴まれても両腕で頭を庇うように抱え、身を縮こませることしか出来ない。
「ああそうだ、ちゃんと守ってろよ。その綺麗な顔と手は大事な商売道具だもん、なァ!」
「……っ、ぐ……!」
皮肉と嘲笑混じりの怒声と共に、大きく振るわれた鈍器が左肩を強く打つ。一度だけではない、二度、三度と繰り返される。筋肉の薄い部分から骨に響いた痛みで腕が痺れてくる。
狙いなど大して付けてはいないのだろう、何発目かが大きく逸れて胸の側面を叩いた。前鋸筋越しに肋骨を打たれ息が止まりそうな激痛が奔る。
「ぅあ゛ッ……! ゲホッ、ぁ、……や、め……」
「やめろって? まだ全然反省してねーだろうがよ!」
「い゛っ……! ……ごめん、なさい……ぐッ……!」
「黙れ! 私はハヤトの為を思ってやってるんだ!」
「……ッ……!」
か細く震える声音で訴えたところで効果は無い。最早毛足の長いラグの上に横たわって極力身体を丸めるしか出来ないが、殴打は絶え間無く続く。痛みの所為で浮かんで来る生理的な涙で霞んだ視界の向こう、腕の合間から相手を見上げればゾクリと背筋が戦慄いた。
何故彼の方まで泣きそうな顔をしているのか。
そもそも何故、こんなことになっているのか。
思考と現状からの忌避を願って、そっとその双眸を閉ざした。
話は1時間程前に遡る。
夜の街を走るタクシーの中は不穏な沈黙が落ちていた。後部座席には仕立ての良いスーツを着た男と、ラフなシャツにジャケットを羽織った男。片やモデルのような美貌と気品を持ち、片や何処にでも居そうだがそれ故にフランクな親近感を持てる容姿をしている。対照的な2人だったが、それぞれの手には揃いの500mlビール缶が握られていた。
運転手からすれば車内で飲まれて吐かれでもしたら迷惑なのだが、折角捕まえた深夜客だ。距離もそこそこあるとなれば逃がしたくはない。だがそこに感じる奇妙な違和感を感じ取り、行き先を聞いた後は沈黙したままカーラジオの音を下げた。
「……社長、どしたの。全然飲んでないじゃん」
「あ、いえ……あの、先程も言いました通り、このような場での飲酒は些か抵抗があると言うか……」
「本当? でも開けちゃったしなぁ」
「……はい……」
社長と呼ばれた側——加賀美ハヤトは自らの異変に気付いていた。実際自分の手元のビールは2口程しか飲んでいない。喉はカラカラに乾いているのだが、胃の腑に巣食う不快感がアルコールと炭酸を拒絶していた。
一方でチラリと様子を窺った先、現状の元凶である男——社築は上機嫌だ。こちらの気など知らず、喉を鳴らして豪快に酒を飲み進めている。それが加賀美の憂鬱の原因だとは思いもしないのだろう。
今日は大型コラボの収録だった。仲間内で行ったオンラインカードゲーム大会の司会進行と解説を行うに当たり、スムーズに行えるように2人だけオフコラボという形を取っていた。長時間に渡る放送後、終電が無くなった社を加賀美の家に泊めるべくこうしてタクシーで運ばれている。
同じようなことは過去に数回あった。収録場所である事務所と自宅の位置関係上そうなるのも不自然ではない。ただ仕事上がりの解放感に身を任せ、車に乗る前にコンビニでビールを買ったところから不穏の雲が広がりつつあった。妙にテンションの高かった社に加賀美も合わせたものの、感情や理性はまだしも身体の方が着いて来られていないと気付く。
「……大丈夫? 気分悪い?」
「いえ、そんなことは……あ、でも少しだけ、疲れはしましたかね、流石に……」
「……へぇ……」
「……!」
親身な問いにへらりと困ったような笑みを浮かべたが、こちらを覗く黒い瞳に全く光が無いことに気付いて全身が強張る。キュウと縮み上がった心臓が早鐘を打ち、缶を持つ手が震えないようにするのが精一杯だった。
怖い。その感情の理由はもう分かっている。この先に待っているであろう出来事も読めているのに、どう回避すればいいか分からない。
「飲まないなら貰っていい?」
「え、あ、はい……でも私少し口付けちゃいましたけど……」
「別に気にしないって」
ペースが早い。既に1本を干した社がこちらに手を伸ばす。ビールは喉越しが重要だから最初の一口で半分程消えるというのはよくあることなのだが、それにしても早い。
捨てることになるよりは誰かの胃袋へ収まった方がいいという点には加賀美も同意する。が、渡していいものかと考える内に缶は相手の手に移り、「マジで減ってねーじゃん」という驚きの声にもまた微かに肩を揺らした。
出来ることなら泊めたくもなかったという感情は口に出せる訳が無い。諸事情を鑑みるとこれがベストである。それに今日こそはと希望を持たんとするが、それとは別に自分の問題が決定的な足枷となっていた。
その後も社が何か喋り、加賀美は適当な相槌を打ったが内容はさっぱり憶えていない。そうこうする間に車が止まり、財布を出そうとする社を制して黒いクレジットカードを運転手に差し出す。後で何かで補填頂くのでとか何とか言いはしたが、具体的なことは全く思い付かない。運転手に若干奇異な眼で見られた気がするが慣れているので気にするまでも無かった。
社長とは渾名でも無ければコスプレでもない。2人で並んで向かう豪邸もまたそれを証明している。だがそこに帰りたくないと誰が言えようか。軽い足取りの社とはどこまでも対照的だった。
「……ただいま……」
「お邪魔しまーす」
いつもの癖で誰も居ない室内に声を投げる。事前に遠隔で暖房を入れておいた為に廊下や玄関も暖かい。しかし加賀美の身体は完全に冷え切っており、気の所為だと思い込もうとしていた不快感が本格的に強くなりつつあるのを直感した。
「ごめんなさい、先にリビングへどうぞ。その辺にある食べ物とか好きにしていいんで……」
「ああ了解、こっちは気にしないで」
本来ならゲストを途中で放り出すなどしないのだが、気心が知れた友人であり、同時に限界が近付きつつあった。彼が廊下の奥へ歩み出すのを確認してからトイレへ滑り込む。鍵をしっかり掛けてから、便器の前に崩れ落ちた。
「……ゲホッ、う……ぇ、……ぁ゛、はぁっ……!」
嘔吐など出来ればしたくない。それ自体の苦しみのみならず、食べ物を粗末にする行為が好きではない。体調管理にも酒にもそれなりの自信があるから病気という線も薄い。だが今は臓腑に渦巻く嫌悪感を吐き出したくて堪らなかった。
しかし今日は夕食らしい夕食を摂っておらず、収録の合間で口にしたのは飲み物以外では菓子類だけで、それも数時間前のこと。パシャパシャと先程飲んだビールと思しき少量の液体が白い陶器の中の水面を叩いた後は幾度咳き込んでも殆ど何も出て来ない。それが余計に辛くて腹を両腕で抱え込むが大した効果は無く、ただ幾許かの胃液を絞り出すに留まった。
こうなっている理由は考えるまでもない。恐ろしいのだ。この先で待つものが怖くて怖くて仕方が無い。それで嘔吐するなど余程酷いなと自覚はしていても良い解決方法は思い付かない。
或いは強いて言えば、さっさと終わらせてしまうのが最善手か。もしかしてもしかすれば見逃されるかもしれない。今日は無事に終えられるかもしれない。前回や前々回は虫の居所が悪かっただけなのかもしれない。
荒い呼吸をしながら淡い希望を思い描き、最後に苦い唾液を吐き捨てる。このまま此処に閉じ籠っていても何の改善もしないし、向こうからやって来るかもしれないという恐怖もあった。重い身体を叱咤して水を流して個室を出る。自動で明かりの点く洗面所で口を濯いでから、表情だけは平素通りを繕うと再び廊下へ戻った。鏡の中の己の顔色はどうしようも無いので放っておく。自室で私服へ着替えてからリビングへ戻った。
「お待たせしましたー……」
「おう、本当に平気……じゃねぇな、顔真っ青だぞ。吐いた?」
「あー、ちょっと車に酔っちゃいまして。今はもう平気ですよ」
バレている。一瞬心臓が跳ねるも、声やら音やらが聞かれていたとしたら嘘を吐く意味も無い。眉を落としつつ苦笑を浮かべて簡単に流せば、「そっか」とだけ返答があった。
そう、厄介なのはそっちではない。加賀美が軽い絶望を感じたのは、ソファに悠々と座る社の目の前、ローテーブルに広がる品々だ。
皿に開けられたナッツ類はまだいいとして、重厚なボトルに入ったウイスキーとグラス、ロックアイスのセットは「その辺」にあった物だろうか。ボトルは他の酒と一緒に戸棚に閉まっていたし、グラスは食器棚に、氷は当然冷凍庫の中にあった物である。勿論歓迎用に出すつもりではあったが、何故既に消費が進み、かなり残っていた筈の瓶の中身がほぼ空となっているのか。
普段は至って常識人にも関わらず、もう箍が外れている理由はひとつしか思い当たらない。やはり招くべきではなかったと思いつつも、手遅れを察知して足が竦む。
「……立ってないで座りなよ。あれ、もう酒無いか」
「じゃあ私、取ってき——」
「座れ」
少しでも距離を取ろうと試みるも、短い重低音に逆えずローテーブルを挟む位置にぺたりと腰を下ろす。分厚いラグのお陰でフローリングの固さは感じないのだが、思わず正座になったのはこの何が待つか知っているからだ。
加賀美の分の一杯を作っている社は顔も上げない。グラスの縁ギリギリまで入れた氷の上に琥珀色の酒が瓶に残った最後の一滴まで注がれる。本来なら極上のオン・ザ・ロックだ。
「今日の大会、楽しかったな」
「……はい」
「まさか私がアイツと戦うなんてな」
「……はい」
「いや、お前がアイツに負けるなんて……って言うべきか?」
「…………はい」
ステアスプーンで数回回す動きも慣れたものだ。カラカラと小さく涼やかな音が鳴る中、応答は両極端だ。
来た。来てしまったと加賀美は悟る。
今回の試合はトーナメント制だが、主催でもあるダブルスリーブはシードとなっていた。つまり勝ち進んで来た2選手は社と加賀美にそれぞれ当たり、勝者が決勝戦へ進む。歴戦の勇士を無造作に屠って絶対強者同士で雌雄を決するのか、それとも彼らに土を付けて新たな王者となる者が現れるのがが見所だった。結果、準決勝戦で社は当然のように勝利したものの加賀美は敗退。社と挑戦者による決勝戦でも社が危なげ無く勝利したのである。これはこれで大いに盛り上がったのだが、加賀美が俯いている理由は他でも無い。
「まぁカードゲームは時の運だから? 格下に負ける時も勿論ある。……だが今日、お前どうやって負けたよ」
「……リーサルミスです……」
「理由は?」
「と、とても……緊張していて……」
「はぁ……違うよな。舐めプしてたろ?」
これ見よがしな程大きな大きな溜息を前に、加賀美は膝の上に置いた両手を握り締める。
相手の手札は1枚だった。盤面の打点は充分で、己の手札にあった強化カードを使用する必要は無いと思ってしまった。デッキ公開制ではあれどそれまでの実況解説で相手の戦い方は全部見て来たという自負が眼を曇らせたのか。サイドボードに何が用意されているかも勿論確認していたが、それを今相手が握っている可能性を考慮出来ず、攻撃命令を出した。
果たして相手は最後の手札を利用し、盤上の1体が消されてリーサル——致命打には至らなかった。バフさえ乗せていればそれでも勝てていたというのに、それを使うリソースもあり、打ち消されたとしても勝利は変わらなかったのに。
つまり、勝てる筈の勝負に慢心で負けた。長時間実況の疲労だの配信映えだのは関係無い。あの瞬間、どうしてそうしたのか自分でも分からないレベルの凡ミスであることは自覚している。
すぐに気付いて挽回策を思考するも、試合の流れは相手側に傾いてしまった。所謂神引きというやつだ、大会で勝てる者は強いデッキを組んでいるのは当然で、その上更に運を味方に付ける。そして自分以外の音声もコメントも切っているにも関わらず『これは教育だな』という声が聞こえ、それに臆した時点で自身のデッキも味方ではなくなった。
試合終了後、ジャイアントキリングを讃えるコメントの波の中に自分への叱責が見えても気付かないふりをした。決勝戦でまともな実況と解説が出来たのは社の代わりにサポートに入った同い年のシンガーソングライターのお陰でしかない。実際に何を話していたかは全く憶えていない。
だからこそ今、問いに対する返答はひとつだ。
「…………はい」
「——ふざけてんのかテメェ!!」
「……ッ!」
裂帛。反射的に掲げた手。鈍い音。冷たい液体。一拍置いて、ガシャンとガラスの割れる音。
グラスを投げ付けられた、それがテーブルに落ちて割れたと認識する前に、近付いて来た社に胸倉を掴まれる。彼は見える部分を攻撃することは無いのだが、頭を守ったのは防衛本能によるものだ。
殺される。そう思ってしまう程の怒気だった。
「ああそうだ、ちゃんと守ってろよ。その綺麗な顔と手は大事な商売道具だもん、なァ!」
「……っ、ぐ……!」
凶器はウイスキーボトルだ。ガラスが分厚い分簡単には割れず、重いだけあって一打のエネルギーが大きい。幾ら普段大した運動をしないシステムエンジニアだからって、成人男性の腕力で振り下ろされれば肉や骨が鈍い音を立てる。
「ぅあ゛ッ……! ゲホッ、ぁ、……や、め……」
「やめろって? まだ全然反省してねーだろうがよ!」
「い゛っ……! ……ごめん、なさい……ぐッ……!」
「黙れ! 私はハヤトの為を思ってやってるんだ!」
「……ッ……!」
何故社が泣きそうな顔をしているのか。
何故こんなことになっているのか。
思考と現状からの忌避を望むが、本当はその理由は分かっている。双眸を閉ざしたところで怒声も暴力も止みはしない。
「俺達が何て呼ばれてるか知ってるか? MtG警察だ! ダブルスリーブは強くなくちゃいけないんだよ! 分かってんのか?!」
「はい……ゴホッ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「じゃあなんで不甲斐無い試合してんだよ! まさかわざとやってたんじゃねぇだろうな?!」
「ち、違います……反省、してますから……もう、ぶたないで……!」
どうにか身を守ろうと土下座のような姿勢で蹲るが、今度は背中に打撃が降って来る。何処をどう打たれているか最早自分では分からず、ただ痛みに根を上げたように掠れて裏返った声を上げた。
子供じみたそれに多少理性を取り戻したか、それとも単に疲れたのか。息が上がった社の手がようやく止まり、自分の足元で小さく震える存在を見下ろしていた。一方それを窺うように見上げた加賀美は戦慄する。
嗤っていた。アルコールに侵食された昏い眼をして、不気味に口角を上げている。
「……そうだな、暴力だけはよくない。ちゃんと勉強しよう。明日も明後日も、一緒に勉強しようじゃないか。ちゃんと教えてあげるから」
「……いえ、明日は……」
「ああ、コラボだったか? じゃあ皆纏めて教育すればいい。何だったっけか、確かすめ——」
「悪いのは俺だ! 彼女らには手を出すな!!」
まずい、と直後に直感した。
痛みが終わった安堵と、先行きへの不安と、同期に影響を及ぼしたくない一心で反射的に吠えていた。身体が燃えるように熱いが構うこと無く身を起こして縋り付いてさえしまっている。
放った言葉も嘘では無い自信があるが、社の表情が豹変し、はっきりとした舌打ちが聞こえて悪手だったと改めて悟った。
「まだそんな口を利くのか……それにまたその眼……そうやって俺を蔑みやがって……!」
「っぐ……か、ハッ……!」
ほぼノータイムで社の両手が加賀美の首を絞める。咄嗟に手を重ねて引き剥がそうとするも、肩や背中を散々打たれた後では上手く力が入らず指が滑った。
殺される、が、同時に妙な納得も覚えていた。悪いのは自分だ。ならば罰を受けねばならない。
怒られると分かっているのに彼を招いたのも、酒が入ると人が変わると知っているのに止めなかったも、吐く程恐ろしかったのに逃げ出さなかったのも、きっと全てはその所為なのだ。
「……! やめろ……その眼を……その眼をするな……!」
「…………」
もう加賀美は抵抗しなかった。重ねた手は引き剥がす為ではなく、もっと絞めろと言わんばかりに社に合わせて力を込めた。
社の声音が引き攣る。何かを畏れているようだ、そんな必要など無いのに。己が今どんな眼をしているのか、加賀美にはよく分からない。ただ徐々に遠退いていく意識の中で反省する。
次はもっと上手くやろう。
次など本当に来るのかは、分からないけれど。
『あれー社長今日なんかおかしくない?』
『何か下手になってないかー?』
「えーそうですかー? 最近やってないからじゃないですか?」
ヘッドフォンの向こうから怪訝な声がする。いつも通り少々馬鹿にするような、それでいてほんの少しだけ心配するような、大半は面白がっているだけの高い声だ。
夜とは言え大型コラボの翌日で問題が無いか不安はあったのだが、3人の時間が合うタイミングは然程多くない。その機会を逃したくはないと予定通りの決行をする共に、オンコラボで良かったと痛感する。
今朝目覚めた時、社はもう居なかった。ローテーブルの上は綺麗に片付けられ昨晩の騒動の痕跡は何も無い。その代わりメモと1万円札が1枚載っていた。とりあえずこれはタクシー代と酒代で、グラス代が足りなければ後で請求してくれと記されている。それから丁寧な反省と謝罪が記されているが、グラスを割った経緯は記憶に無いらしく、暴力行為については何の記述も無かった。
ただあの後多少は我に返ったであろうことは、加賀美が生存していることと上半身に幾つも貼られた湿布から察知出来た。こういう事態に備えて分かりやすい場所に救急箱を置いていたのが功を奏したか。
だがそれだけで痛みが消える訳ではない。痣は幾重にも残り、首筋にはまだ薄らと手の跡が残っている。キャラクターを操作する手を動かす度に違和感があって、喋る度に肋骨が軋むような感覚がする。それでも、と目紛しく動く画面と音声に集中する。
『なんか声もちょっと変?』
「そうですか? マイクの設定おかしいかな」
『へへーん夜見分かっちゃいましたよぅ。昨日の負けが悔しくて一晩中泣いてたんですねー?』
「あっバレちゃいましたぁ?」
『え゛っ嘘やろ兄さん』
「嘘です」
『何だよー!』
「あっでもめっちゃ悔しいのは事実ですよ……あと、あの後裏で社さんに思いっきり教育されました」
今日のゲームには関係無い話題なのだが、2人の笑い声と、加賀美の配信だけあって同情的なコメントが高速で流れて行くのを確認しながら胸を撫で下ろす。
これはエンターテイメントだ。ライバーとして望まれる姿を見せればいい。客観に徹すれば苦痛も笑い話に出来る。まだ大丈夫と、自分にそう言い聞かせる。
【兄さん本当に平気?】
【早めに終わって突発マジラボしてもいいよ?】
画面の端、ライバー間を繋ぐチャットツールの中でSMC組と銘打たれた部屋に2人の文字が現れる。その瞬間こそ心臓が締め付けられるも、直後に緩く微笑んだ。
【お2人が居るので大丈夫です】
短く返信した後は再びゲームに戻る。音声での返答は何も無かった。リスナーも気付いた者は居ないようだ。
こうして上手くやればいい。傷を重ねたとて、見せなければ無いに等しいのだから。
それは彼だって同じことだろう。そうやっていつの間にか出来た吹き溜まりの掃除と己への処罰が兼任出来るなら、喜んで受ける程度にはこちらも壊れている自覚がある。だからこれからも共に行くのだろう。
幸いにも次はまだあるようだから、ただ進むまでのことだ。
誰かの為に——それを望む自分の為に、その歓びの為に。
余談というか後書きというか
タイトルの「Rakdos」とはMtGの色から拝借。
バイオレンスなので「黒赤」だろうってことでこいつ、なのでまとめも利己主義と快楽主義っぽく。案の定タイトルは最後に付けたのでそこまでメインテーマとは言い切れないです。もっとサディスティックでも良かったか。
「and」はSMC部分なんですが何とも言い切れなくて暈しちゃいました。何デッキなんすかねこれ。相変わらずMtG分からないのに書いてます。
社さんはいつものサイコパスDV教育マンです。(社長は家族じゃないのでDVではないですが)
アル中要素とかは緑さんの配信からアイデア頂いています。ありがとうございました、大変美味しゅうございました。
社長に「ぶたないで」と言わせたかったので殴打しないといけなかったのですが、原作(?)では首絞めしてたのでそちらも入れました。
本人はすっごくダブスリのこと大事に思ってるけど言いたいこともありそうだよねと思ってこんな感じにしてみました。こういう時だけハヤトって呼ぶ(妄想)。
社長は今回徹底して被害者側。ポンさせてしまって申し訳無いけど世界大会のシーンやプロプレイヤーでもたまに(ごくたまにだけど)やらかすから人間って面白いよね。
悪い子には教育しちゃうってのは、自分が悪いことしたら徹底的に教育されてたからだろうなという発想から、潜在的に怒られたがりにしてみました。
「ぶたないで」って一言の為だけにこの話書いたんですが、多分幼少期にパパ辺りから厳しい躾を受けていたとかあると私が嬉しいです。
あと嘔吐は性癖。社長はこんなに脆くはないとは思いますが以前大層こっ酷くやられたものと思います。
その割にSMCについて言われると男の子出ちゃうの良いと思いませんか? 私は思います。
SMCもちょこっと登場。最初はダブスリのバイオレンスが見たくて書いてた筈なのに、途中で「同期を庇う社長」ってカッコいいなと思って入れたらこれです。
まぁダブスリだけだとオチが迷子でどうしようかなーって思ってたんで結果オーライかもしれない。あと「察してる感」が欲しかった。
本当はボロボロなのにそれを隠して笑ってる人も性癖(※傷付いてる系大体好き)なんですが、もしこれで2人が真実に気付いたら?って次の妄想膨らむようにしておきました。引き大事。
あとはっきりとは出してないけど、大会はMtGでSMCがやってたのはマイクラのイメージです。
それからゆめお。奴は1行にも満たない登場だけど私は凄く信頼してる。
本人は2戦目辺りで負けて、準決勝と決勝で実況してた想定です。決勝が社vs加賀美だったら実況ゆめおで解説チャイカさん辺りかな。「何やってるかさっぱり分からない」って言いそうだけど。
マジでにじさんじ内MtG大会見たいので開催しないかなって思ってます。決勝はBO3ってことまで考えたけど入れる必要無かったから省いた。
社長に勝った人が誰かは想像にお任せします。こうだったらエモいなって人を当て嵌めてください。
コラボする度にダブスリ(+ノースリーブ)てぇてぇSMC組てぇてぇになって困るんですが、可愛いのでじゃんじゃんやって欲しいですね。
読者の皆様におかれましては今回も欲望の垂れ流しにお付き合い頂きましてありがとうございました!