ミニノベルゲーム『あなたはねこです。』の制作秘話……
という名の「こんなことを考えて作ってたんだけどどうだった? よかったら皆もゲーム作ろう!」というただの感想と沼勧誘文です。
多大なるネタバレを含みますので、先にゲームの全ルートを見た上での閲覧をオススメします。
ゲームのプレイはこちらからどうぞ。
開発に関する話
ゲームページにも記載してますが、エンジンとしてティラノビルダーを使用しています。
今までNScripterやツクールやウディタやUnityなどの経験があるのですが、お手軽にノベルゲーム作りたいなー出来るだけスクリプト打ちたくないなーと思い、ぴったり合致してたのがこちらでした。
仮素材で仕様確認→エディタ内でシナリオ一発書き→演出導入という流れでやっていったのですが、結果的にスクリプトを打つことになった部分もあったのはまぁいつものことですね。シンプルでいいと思ってても……作ってる内に……こだわりたくなっちゃうんだよ……!
ただUI画像も含めて必要な機能がほぼ全部揃っていたので困ることは殆ど無かったです。
立ち絵について。
ティラノビルダーだと1表情につき立ち絵1枚なのですが、これだと枚数が多くなりすぎてしまうので、差分パーツによる実装を導入してます。
キャラ差分パーツ-使い方&チュートリアル - ティラノスクリプト
【ティラノビルダー使い方】 差分のあるキャラクター関係 (自分用の覚書き) - ノゾチー3000
……ええそうです、「スクリプトを打つことになった」のはここですね。
「眉・目・口・持ち物(社長のみ)」をそれぞれ別パーツとして用意して頂き、場面に合わせて組み合わせを指定しています。場面によっては1台詞毎に変わったりしているのがこわだりポイント。
ちなみに組み合わせパターンは社長が1440通り(4x9x8x5)、葉加瀬さんと夜見さんが162通り(3x9x6)です。マジでパーツ差分方式にしておいてよかった……!(ゲーム内で使ってない組み合わせもあるけど)
BGMについて。
こちら公開前にもちょっと呟いたんですが、社長のいつものBGM(『BLACK ESCAPE』と『ショートストーリー』)と同じ作曲者さん(2名)の素材を使用しています。
私何度かゲーム制作はしているのですがこのBGM選定が悉く苦手でして、こういう縛りを設けでもしないと逆に選べなくなるというのが理由でもあります。
本当は音楽面でもなるべく社長に合わせようかなと思ったのが始まりだったのですが、この作曲者さん達はかなり多彩な方でして、丸っきり雰囲気の異なる曲が出てまして……ルートに合わせて展開が全然変わるからBGMもそれに合わせちまえ、という方向性になってます。
結果的にほのぼの、ポップでキュート、ホラー、悲しげなオルゴール、切なくて壮大、ロックという選曲になりましたがいかがでしょう、どれも結構お気に入りです。
特に『Bulldozer』はタイトルで「これだ!」→曲聞いて「完璧!」となり即決。「ブルドーザーのドーザー部分」という名(迷?)言が頭に過ぎるタイトルと社長のシャウトの幻聴が聞こえて来そうな滅茶苦茶カッコいい曲調が大好き。これをねこ真エンドにぶち当てるのクールでロックだわーと思いながら書いてました。
プログラムについて。
皆様お察しの通り元々多少はプログラム出来る人なんですが、今回それを発揮してる所はあまり無いです。スクリプト打ったのは前述の立ち絵関係ぐらいだしこれもほぼコピペだしという形。
特定の環境で音が出ないだの何だもあったんですが解決方法が分からず、「まぁ致命的じゃないしええやろ!」の精神でリリースしてしまっています。その環境下にある方は本当に申し訳無い。
今回ゲームを作るに当たり「Webブラウザで動くこと」は必須でした。こんなちんまいゲームをわざわざインストールさせてはいけないと思ってたので。なのですがブラウザは環境差が大きく、主要なもので6種類(Chrome/FireFox/Safari/Edge(IE)/iOSのSafari/AndroidのChrome)もあり、更にOSも含めたバージョン差まで考えるとクッソ面倒臭い案件。
ティラノビルダーを選んだのもブラウザ用書き出しが出来るからなのですが、この辺は気にならないようになっているの滅茶苦茶凄いと思います。私だったら心が折れる(折れた)。
設定等をちょい弄りはしていますが、ほぼノーコーディングでここまで動かせるのはマジでヤバイ(小並感)ので、もしゲーム作りに興味があるという方は触ってみるといいと思います。
ゲーム作りは! 楽しいぞ!!!
以下、シナリオについてのお話です。
タイトル
「わー可愛い猫ちゃんの写真にほわほわしたBGM、きっとあったかくて楽しいお話なんだろうなー」と思った方、残念でした。そんなエンディングは無い。
ばっちりタイトル画面詐欺です。冒頭に注意書きが付いたのでまだマシにはなりましたが、情緒ぶっ壊しゲーの理由のひとつかもしれません。すまんな!(愉悦)
(「精神汚染ネタなので注意書きあった方がいいのでは」とテストプレイで指摘されるまで気付いてませんでした、ありがとうございます……)
1日目:出会い
初期にTwitterで上げてたムービーを見てもらうと分かりますが、元々は選択肢が二重になっていました。(最初に「鳴く」か「近付く」と、もう一度「鳴く」「撫でさせる」「逃げる」の選択があった)
ですがこうするとフラグカウントが面倒臭くなるとテストプレイ時に判明した為、1日につき選択肢は1つまでに統一しました。
その結果猫らしい一方的なコミュニケーションになってます。社長と直接会話出来る訳じゃないんだよという提示もしてます。
ここではまだまだ可愛いにゃんこですね。時にツンなのもまた魅力だと思います。
2日目:餌やり
本来「鳴く」選択では煮干しを拒絶する予定でした。物を食べないって生物ではないモノの表現として分かりやすいですよね(某ゲームに想いを馳せる遠い目)。
ですが絵師様がおまけでちゅ○る素材も描いて下さったので「流石のねこもち○〜るには敵わないってことで!」と簡単に脳内で設定を改変、実装しました。「この時点ではそもそも存在としてねこか猫かあやふや(=食事も出来る)(=例のSCPの生成物ではない)」として辻褄を合わせています。
「食べる」選択では普通に猫。余談ですが私が子供の頃、夕方になると勝手口に隣の家の猫がやって来て煮干しあげてた記憶から着想得ました(飼い主さん了承済)。
社長も言ってますが本当は野良猫に餌付けしてはいけません。よいこはまねしないでね。
3日目:猫じゃらし
「鳴く」ではねこ、本領発揮。この辺りで元ネタ知ってる人は察知可能かと思います(何ならタイトルだけで察知されそうですが)。
対比の為に「遊ぶ」では思いっきりはしゃいでもらいました。冷静に考えると会社の前で何してんだって感じですがまぁ社長だし。猫じゃらし奪われるのは前述の隣の猫で一度やられたことがあります。あの時は植物の方の猫じゃらしだったんでいいんですけど。
精神汚染されている描写については絵師様と「何かしらホラーっぽさを見せたいですね」と相談した結果、最初は眼のハイライト消す案を挙げていたのですが画像サイズ的に違いが分かりにくくてイマイチ。
「じゃあいっそ黒ベタ塗りにするか、それとも元をキラキラにしますか?」とアイデア頂けたので両方採用しました。天才です。
そして猫じゃらしはスーツに溶け込んでしまうのを防ぐ為にも蛍光色でと指定しました。そういう商品が実際に結構あるのもそうなんですが、社長だったら「派手な方が見えやすくないですか?!」とか言いそうだなぁと思いまして。
ペットショップで内心ウキウキしながら猫じゃらし選んでる社長を遠目から見守る店員になりたいです。もしくは猫と遊んでる社長を後ろからムービーで撮りたい。
4日目:マジックラボ
転換の日。実は短いながらも会話内容が5ルートあります。
冒頭の会話は最初期のSMC組マリオメーカーコラボやBesiege正式リリース時のSC組コラボ等をご参照ください。加賀美インダスティーは誤字ではないです。葉加瀬さんのこういう言い回し好き。本当は夜見さんの鳴き声ももっと入れたかったんですが文字化が出来ない……何だあの音は……
各選択に伴うルートのイメージはこんな感じ。
「ねこ→鳴く」は着々とねこの侵食を匂わせると共に、夜見さんの立ち位置を印象付けています。
「ねこ→逃げる」は夜見さんの愛情爆発。この2人の関係も好き。ふゆれなてぇてぇ。
「猫→撫でる」はただの幸せ空間。可愛い女の子2人が可愛い猫撫でてるとか天国じゃん。
「猫→逃げる」はヤンキー葉加瀬の匂わせ。ブチ切れはかちぇも可愛いよね。
「バッド」はあるあるネタ。ジト目も描いてもらったんですよ! でもここでしか見られないというレアさよ。
ふゆれなは本来ここでしか登場しない予定だったのですが絵師様に可愛く描いて頂けたので後半で登場シーンが増えました。
でも社長登場後も3人揃って並ばないのは拘り。今回社長は加賀美インダストリアルの社長という立場なので、寄り添うのではなく対面しているという画面構成にしています。元々しっかり身長差は合わせて頂いているので、並べても全然問題無いんですけどね!(絵師様のツイート参照)
ねこルート
にゃんにゃん鳴いてて可愛いと思った? 残念こっちが本性です★なサイコルート。
元ネタが大分知名度高くて人気なので途中で察知したという方も多かった様子。見る限り好意的に受け止めて頂いてありがたい限りです。元ネタを知らない方はライセンスのリンク先をご覧頂くか(ややホラー注意)、「SCP-040-JP」でググってください。
このゲームはホラーとしては全然ぬるいと思っているのですが、本人が全く気付かない内に徐々に日常が侵食されていくのっていいですよね。
真エンドは全エンディングの中で一番ハッピー。だと作者は思ってます。
だってあなたと社長はずっと一緒にいられます! 世界中の人がねこを認識しているので誰も邪魔しません! やったね!
代表取締役でVtuberで歌手って曝露者として最悪な部類だよなと書いてて思いました。最初期の曝露に気付かれないまま社長がいつものエンターテインメントを炸裂させた結果、ミーム汚染が早過ぎ&大き過ぎで財団の対処が不可能だった想定です。
葉加瀬さんも社員さんも勿論汚染されてますが皆そうなので何も恐れることはありません。夜見さんは……ご想像にお任せします。
普通エンドはねこの力が不完全だった世界。表面上は一番SCPらしさが出ている展開です。
社長の立場が危ぶまれたりと悲痛は悲痛なんですが(代表取締役の下ろし方とか今回調べて初めて知りました)、エージェントさんがギリギリ間に合って諸々処置された後に元の生活に戻れる想定なのでハッピー……というか未来は平和です。
夜見さんは実は[編集済]だったという捏造。キュートでミステリアスなマジシャンっていいよね。
「迎え」に来ているエージェントさんは普通に財団の方という想定です。詳細は補遺で補完してます。
猫ルート
なんでお前は素直に猫を可愛がれないのかとお叱りを受けそうな、平和な筈だったルート。
社長が猫好きであろうってのはマイクラ資材サーバー探訪で類推。下手すりゃ人間より動物の方が好きなんじゃないかなこの人。
でも実際に生き物飼うって責任持たなきゃいけない。多分社長はそういうのちゃんと分かってるかなって何となく思ってこういう展開になりました。全体的に責任を負う自覚がある人だしね。
真エンドは滅茶苦茶悩みました。
潜在株主としては社長に飼ってもらいたいだろう。そりゃそうだ。私だってそう思う。
ただ社長の生活って恐らく猫を飼うのに向いていない。飼えなくはないんだろうけどきっと難しい。防音室ばっちりだとそこに猫は入れないからその間構ってもらえないし、もし入れたとしても大きい声や音を出すので猫にとって良くない環境だと考えそう。
そして加賀美インダストリアルは結構大きいと想定しているので、社員の中に1軒ぐらいは猫に適した家があるだろうし、そこと見比べたら社長は譲るだろうな、と。
あと、二次創作とは言え「社長本人の意思で生き物を飼うという選択をさせていいものか」という不安もありました。社長が居ないと生きていけない存在を部外者が社長に押し付けてよいものかという悩みです。精神汚染させておいて何言っとんねんという感じですが、現実に起こり得ることはまた違うじゃん……!(※個人の感想です)
「シナリオ上望まれる展開」と「私の中の解釈」を喧嘩させた結果、後者が勝ちました。もし開発中にペット飼ってるって情報が入ってたら話変わってたんですけどねー残念!
そしてこの所為でこのゲームは「何度巡っても純粋な幸福に辿り着けない」事態に陥りました。猫生としては確かにハッピーかもしれないけれど、プレイヤーはきっとそうではない。
多分ここが好みが分かれるポイントだと思うんですが、「悲しい・切ないけれど解釈一致です」というお声を頂けてとても嬉しかったです。狙い通りです。すまんな!
普通エンドは社員さんと葉加瀬さんでわいわい。
本当はここは社員と秘書しか居なかったんですが、ねこルートで夜見さんが出ているなら葉加瀬さんも出したくね?と開発の超終盤に思ったので半ば無理矢理突っ込みました。あと社員さんの語気強過ぎない?とデバッグ時にご指摘頂いたので諸々緩和されたポイントでもあります。
私の中では加賀美インダストリアル、元が重工業系だったので職人気質の社員さんも多そう→割と体育会系な人もいそう、というイメージがあります。中には今の社長をよく思っていない、親の七光りがよみたいに思ってる人も居るかなとも思ってます。それを社長が実力でねじ伏せたり和解する展開が好きです。
このシーンで出て来る人は割と絆され済みな方です。あと猫ちゃん可愛いしね仕方無いね。
真エンドと似ているようで違うのは、社長自身が別れの覚悟を決めたかどうか、最後に向き合えたかどうか。
こっちの社長も飼い主探しとかやってるのは同じなんですが、「どうせただの猫ですし」とか口では言っちゃってるパターンです。社長はリアリストでもあるので友好度不足だとこういう発想もするだろうなと思った次第。そういう距離感を一方的な電話で表現しました。
ただそれでも、どうしても甘さが残るのもまた社長かなぁと。最後の台詞も元々は秘書さんが言ってたんですが、葉加瀬さんの台詞にしたらより一層自然になったなぁと思います。社長は嘘が上手いと勝手に思ってるんですけど、いつも傍に居る人には見抜かれてるのっててぇてぇよね。
バッドエンド
作者が個人的に一番好きかもしれない、というか無駄に演出に気合入ってるルート。
当初の予定ではねこは井戸に帰る予定だったんですが、あまりに味気無い気がしたのと敢えて井戸を出さない方がいいなと思ったので猫として死んでもらいました。
人によっては延々逃げてふゆれなに無視された後でこのルートに来るのでここまで社長が入れ込む根拠が薄いってのを大分忘れてたんですが、まぁ社長は優しい人だからセーフセーフ。
ラストシーン、最初はもっとオーバーリアクションで結構叫んでました。
が、開発中に『デトロイト』『事故物件』配信があり、生死感や猫の死体の扱い見て、あれこれ違うな?と思いまして。
驚くと声が出ず、表情をあまり動かさず静かに取り乱し、でも割り切りや切り替えは滅茶苦茶早い。その結果あんな感じになりましたとさ。
(なお更にその後の配信で「マジでびっくりすると普通に叫ぶ」「動揺すると普通に手元が狂う」と判明する訳ですが)
ですが問題のラストシーン。ここもシナリオ方向と社長解釈の喧嘩ポイント。
シナリオ的には泣かせたい。でも解釈的には大分怪しい。「そんなことされたら泣いちゃいますけど?!」みたいな言葉は幾度か聞きましたが、果たして行きずりの猫が目の前で死んだ程度で泣くのか。
これまで見る限り生き物の死を悲しむ心はありそうだがドライさもある。多分泣きはしない。延々力無く「そっかぁ……」とかは言うかもしれない。でもちょっとだけ……ラストが締まらないからもうちょっとだけでもインパクトが欲しい……などなど散々悩んで「一粒だけ」になりました。
なおこの場面、「お腹の辺りがスースーする」「一目見ただけでもうすぐ死ぬと分かる」猫を撫でているという慈愛とグロテスグの混ざるシーンでもあります。
でもこの辺はノベルゲーの妙。スチルなど無い。皆まで言うまい。実際に何が起こっているのかは皆様のご想像にお任せします。
補遺(またはこのゲームの本質の話)
全エンディングを見ると閲覧可能なおまけ要素。実はリリース直前に追加しました。
SCP作品、そして「このゲームは何だったのか」という補強でもあります。
インシデントレポートはご覧の通り「ねこ普通エンド」に準拠しています。
作者はSCP初心者ですし実際の草稿とか書いたこと無いんですがそれっぽくなるように頑張りました。補遺とかインシデントレポートとか単語だけだと普通の言葉なのに積み重ねていくとSCPっぽくなるのすごい(小並感)。厳密には補遺というかTaleな気もするけれどそこは大目に見て頂ければ幸い。
博士もどこかの博士です。特に誰とかは決めてません。エージェントも博士も社長と同じ世界(ライバーが暮らしているバーチャル世界)の人間です。
さて、今回のゲーム作成の動機なんですが「社長が猫と戯れてるのって最高に良いよね→そういうゲームあったら良いよね→実は猫がねこだったりしたら面白くね?→分岐出来るようにしーよう!」というものでした。
私はいつの頃からかねこの存在を知っていたので(ねこはいます、よろしくおねがいします)、よっしゃ組み込んじゃうぞーと改めて財団の説明ページ読み直してたんですが……
ねこ、実在しねーじゃん。
困る。社長になでなでされたり抱っこしてもらいたいのに実体が無いのは困る。最初に考えたのは「とある猫が収容施設に入り込んで井戸の中を見て汚染され、その猫が外に出てミームを振りまいた」というものだったんですが、井戸めっちゃ収容されとるやん。猫が入れる気も出て来られる気もしないやん。(ねこが猫に出会うTaleはありましたがそっちとの被りは避けたい気も少しあった)
じゃあどうするか?
似て非なるSCPにしよう。
そう閃いた瞬間、全部綺麗に繋がりました。
最初の発想の時点で「あなたはねこ/猫です」というキーフレーズがあって、これは本来誰に発されたものでもないシステムメッセージの筈でした。(前述の理由で本当に初っ端の時点では普通に「猫」でした)
「???」と振ってはいましたがこれは「名前部分が空白だとUIがおかしく見えるから便宜上こうしておこう」という、要はプログラマーのズボラ故のものであって、最初はモノローグではなかったのです。
ですがもしも、この「???」が新種のSCPであったなら? いきなり第三者をねこ/猫だと言ってバーチャル世界に送り込むことも、日数をカウントすることも自由自在です。だってSCPだから。
まずこのラインを確保する為に、わざと各エンディングで偉そうなことを言ったりヘルプで存在を匂わせているのはこの為です。ねこと「???」はいます、よろしくおねがいします。
でも少し待ってほしい。
シナリオ分岐型のノベルゲームってよく考えるとおかしなものです。全く違う世界線が重なり合っていて、プレイヤーはそれを行き来出来る。セーブロードや周回プレイで時間をも飛び越えている。これはゲームとしては酷く当たり前でも、普通の生活から見れば特異なことです。
ゲームの中の世界に住まう人(すめしや社員等)はこれを平然と行うプレイヤーを全く感知していない。博士は時空の超越には勘付いたけれどプレイヤーの存在にまでは気付いていない。一方で「???」はプレイヤーを認識しており、実際の選択を行なっているのはプレイヤーだと知っていました。けれど、だからこそ「あなたはねこです」と言い続けて来た「???」からの最後の一言はあの問いかけなのです。
「???」でさえも、プレイヤー=「あなた」が何者であるかは厳密には知らない。これによる無限の可能性。
SCPは「???」なのか、プレイヤーなのか、はたまたこのゲームそのものなのか。
それは視点によって変わるもの。だってSCPとは謎多き不可思議なオブジェクトなんだから、ひとつに答えを絞り込むことも無意味なのだよ、とここには記しておきます。……或いは「あなた」が目にしたり考えること、それにより完成し得るSCPかもしれません。
まぁ何にせよ、ねこはいるのですが。
最後に
長々と記しましたが、これにて猫と社長のゲームの話はおしまいです。
最後になりますがイラストのご協力を頂いたササササビビビ様、本当にありがとうございました! とてもカッコイイ&かわいい立ち絵のお陰で私のやる気も滅茶苦茶出ました。皆の頭の中にねこはいます。
また、テストプレイを行なって頂いたやまさん🌄様、湫様にも感謝致します。初っ端バグだらけで申し訳ありません……! やりたいことやっただけのライター兼プログラマーにお付き合いくださり本当に助かりました。
そしてTwitterのタグで感想をお書き頂いた方もばっちり見てますよー! マシュマロでも人によってはハードルは高いかな?と思ってハッシュタグで感想を求めてみたんですが、想像以上に多くの方に楽しんで頂けたようで本当に良かったです。特にイラストやふせったー等での長文感想を拝見する度に作者冥利に尽きる一方でした。SCP警察からのお叱りが無くて良かった……!(※今からでも何かあったらご指摘頂いて構いませんので宜しくお願いします)
私のズボラが故にやたらと時間が掛かってしまいましたが、また良い案が浮かんだら何か作りたいですね。
それではまた次の長い話でお会いしましょう!
『誰かの見た夢』
あなたは夢を見ていました。
あなたは夢の中でとても大きな家に住んでいました。
家から出ることは出来ませんが雨風に憂うことはありません。
温かな水が溜まっていたりいなかったりする池以外はどこもお気に入りで、沢山の部屋の中からその時々の気分に合わせて快適な場所を見付けて自由に過ごすことが出来ました。
家には1人の人間が一緒に住んでいました。
彼はあなたの面倒を見てくれる存在であり、あなたより遥かに大きいけれどとても気の優しい生き物でした。
あなたの為に暖かくて狭くて暗い寝床を用意し、好きなだけ上り下りや爪研ぎが出来るタワーを配置し、トイレを清潔に掃除してくれます。
新鮮な水がいつでも飲めるように準備し、普段はカリカリだけど時々美味しいご飯を出し、たまにですがあなたが大好きなおやつもくれます。
度々出掛けては遅くまで帰って来ないこともありますが、沢山の玩具を置いていってくれるので退屈は凌げます。彼が家に居る時はあなたが満足するまで「狩りごっこ」に付き合ってくれます。
ただ残念なこともあります。
彼は時々あなたを捕まえて恐ろしい水を掛けます。抱っこするフリをして押さえ付けて自慢の爪を切ってしまいます。
あなたを狭い箱の中に閉じ込め、その箱がゆらゆら揺れて、気付けば嫌な匂いのする部屋の台の上で複数の人間に酷い目に遭わされる時もあります。家に帰れはしますが気分の良いものではありません。
その度にあなたは不貞腐れて寝床に引きこもりますが、暫くすると世話係が文字通りの猫撫で声であなたの名前を呼ぶのを知っています。
そういう時はおやつが待っているので、あなたは仕方が無いなと重い腰を上げてその貢ぎを受けてやるのです。美味しい物を食べて、撫でて欲しい所を撫でられれば、嫌な気分などすぐに忘れられるのです。
それでもひとりきりはつまらないものでした。
あなたが入ることを許されない部屋があります。ある時他よりも厚いドアが薄く開いていたのを見て侵入したことがありますが、そこには不思議な道具が並んでいました。他の部屋と同じように沢山の玩具と、じゃれつき甲斐のありそうな沢山の紐と、眩しく光る板や変な置物がありました。
その時はすぐに彼がやって来てあなたは捕まえられ、ここに入ってはいけないのだと叱られました。真剣な口調でしたが少しだけ申し訳無さそうだったので、あなたは可哀想に思って言うことを聞いてやることにしました。
彼は家に居る日は殆ど毎日のように、夜その部屋に篭ります。朝になるまで出て来ない時もあります。時には昼間から夜までずっと閉じ篭っている時もあります。彼の寝床は別にあるので、彼がその部屋で寝泊まりしていないのは分かっています。
今夜もお気に入りの場所でごろごろしながら、あなたはその部屋から聞こえる彼の声を聞いていました。
人間には殆ど聞こえない音なのでしょうが、耳が良いあなたには少なくとも彼が喋っているということは分かります。
あなたはこの家に来る前から、人間は遠くに居る別個体と会話することが出来るとあなたは知っていました。恐らくそれをしているのでしょう、笑ったり叫んだり賑やかです。
時々歌ったりもしているようでした。その部屋の外で彼が鼻歌や小声で歌っているのを聞いたことはありますが、大きな声を出すのはその部屋の中だけでした。あなたにその良し悪しは分かりませんが、どこか苦しげに聞こえることが多くありました。
彼もまたひとりきりでした。いつもその部屋の中では誰かと話しているし、家の外では別の人間と会っているのだろうけれど、あなたから見える彼は独りでした。
だから彼の声が途切れて扉が開く気配がすると、あなたは立ち上がってその部屋の前に向かいます。さも偶然通り掛ったのだという顔をして、部屋から出て来た彼の足に体を擦り付けます。ごろごろと喉を鳴らし、立てた尻尾も足に絡めて、撫でたりおやつを与えてもいいということを彼に伝えます。
こうすれば彼が笑うのだと、ひとりきりではないと伝えられるのだとあなたは知っていました。
「また待っていたんですか? じゃあ寝る前にちょっとだけ遊びましょうか」
扉や壁越しの声よりも、直接聞く彼の声が好きでした。
あなたを踏まないように慎重になる足取りが、あなたを抱える大きな手や腕が好きでした。
「そろそろ玩具の入れ替えをしましょうか……あなたもそろそろ飽きる頃でしょうし。
そうだ、またウチの社員が新作を考えたんですよ、試作品がもうすぐ出来るので使ってもらわないと」
あなた用の玩具箱を漁る背中が、向けられる穏やかな笑顔が好きでした。
初めてあの場所で出会った時から、この人の傍に居たいと思っていました。
「ほら、いきますよ?」
猫じゃらしを持つ彼に如何なる方法でそれを伝えられるのでしょうか。
彼はひとりきりではないのだと、この身を気遣わず好きなだけ歌っていいのだとどうしたら教えられるのでしょうか。
思い付いたその方法は、してはいけない、ということは分かっていました。
今が一番平和で暖かで、存在し得ない記憶は起こる筈の無い出来事だと知っている筈でした。余計なことはする必要は無いと確かに思っていた筈でした。
ですがそれでもまた、"今度も"あなたは口を開いてしまいました。
「にゃーん。」
——あなたは夢を見ていました。
井戸の底から見上げる空は最早空ではなく、夕焼け色に染まった視界は緞帳の如く閉ざされて、また物語は巻き戻されます。
それは夢でしかなく、都合の良い願望でしかなく、根拠の無い幻です。
彼も、他の人間も、あなたを映した存在すらも、何処にも実在しません。
あなたは何を望みますか?
あなたが居なければ彼らが居ないとするならば、あなたが望む限り、数多の彼らが存在し得るでしょう。
あなたはどんな夢を求めますか?
あなたがこれを観測したという事実と次なる願いを紡ぐことにより、彼らも"私"も形を持ちます。
それがこのオブジェクトの意義。役目。シュレーディンガーとエヴェレットの空想。或いは何の意味も持たない嘯き。
さぁ、今一度問いましょう。
あなたは一体、なんですか?