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 プロフィール・説明Twitterマシュマロ

社長達のArk実況プレイを戦記っぽく書いた二次創作物。
大体は本編に寄せていますが、各種変更・誇張表現などを交えています。
事実関係は他視点含めた配信をご確認ください。

第4話。そろそろ筆者も付いていくのが大変になってきたぞ!

第1話前回の話


【元動画】
 叶とのビジネス回↓

雑談枠:杞憂の話
 渋谷ハジメとの会談・水同盟締結・水道管建設回

 

 戦争で必要とされるのは、なにも将と兵士だけではない。
 彼らの持つ武器と、彼らが食う食糧が要る。それを供給する兵站が要る。
 未だ小国であり全員が将にして兵であるアルファスレイヤーズキングダムは、その源を外部へと求めた。
 即ち戦争を後方より操る者、武器商人との契約である。
 
 相手取るは”四皇”の一角、叶。そして同、渋谷ハジメ。
 圧倒的な島滞在時間により、いずれもほぼ1人きりのトライブにも関わらず島内最高峰に匹敵する文明力を有する存在である。一見物腰は穏やかな男達だが、その本質は片や残虐な愉悦に満たされ、片や真意を見せることは無い。
 
 戦争に必要とされるもうひとつの要素、それは狂気である。それは既にそれぞれが有していた。ならば後は、それを以って何を取り交わすかである。
 2人の商人を相手取った”血の契約(ビジネス)”が幕を開け——終結したかに思えた水問題が、新たな暗雲を齎そうとしていた。
 
 
 
にじさんじARK戦争 第1章第4話『空を堕とす為に』
 
 
 
 その日の始まりは実に長閑であった。
 会合までの時間、加賀美は1人でもふもふスターライトとAC-130という2羽のアルゲンタヴィスと共に“飛来物(クレート)”回収に勤しんでいた。これは一定時間毎に天高くから眩い光と共に降下してくるアイテムポッドであり、運が良ければ質の良い道具が手に入る代物である。開始早々ユタラプトルに生物としての上下関係を知らされながらも無事復帰した加賀美はそれらを回収。ついでにオベリスク方面も見学、拠点が近い叶に発見され柔らかく牽制を受けたりしながらも空の旅を楽しんでいた。アルゲンによる恐竜の鹵獲と空中での攻撃を試す余裕すらもあった。
 
「あー……景色良いなぁ本当に」
 
 まさにそれは嵐の前の静けさだった。空は澄み渡り太陽は島の木々と海を明るく照らし、誰がしかの建築物の合間に恐竜が闊歩する。さしもの戦乱の火付け役であっても、眼下に広がる美しい大自然に思わず見たままの感想が漏れていた。
 次の瞬間には自身が戦士であることと自らに掛けられた血みどろの期待を思い出しはしたが、それは目的の為に盲目となっている訳ではない証左であった。
 加賀美は真の悪行が出来ない人間であった。これまでも悪役になれと求められ、暴力に身を任せたこともあったが、その根底は善であった。故に皆から愛され、多くの支援と声援を受けて来た。たとえ敗北しようともその立場は変わらぬものであった。
 加賀美が拠点で荷物の整理や製造に勤しむ間、ワールドチャットでは叶と本間ひまわりによる平和な会話が行われていた。それを眺めながら、自分はこれから間違ったことをやろうとしているのではないかと一瞬だけ加賀美の心が揺らいだ。
 だが加賀美は正しく狂人、或いは道化であった。
 
「私は間違っているが、世界はもっと間違っている」
 
 なので戦う。至極単純な話であった。何がどう間違っているかなど問題ではなかった。それを聞いているのが潜在株主だけであったとしても充分だった。長らく加賀美を見て来た彼ら彼女らは加賀美を咎めるばかりか大いに賛美し鼓舞したのだった。
 そして戦争とはビジネスを伴うものだ。加賀美は相手の指示の下、集合場所へと赴いた。
 それはアルファスレイヤーズキングダムの拠点に程近い海岸であった。待機中、加賀美が砂浜近くに留まっていたイクチオサウルスを見付けて可愛いと興味を持つ間、リスナーの一部が不穏に囀る。
『黒船来航』。それは一見すれば比喩とも取れようが、別のリスナーが伝書鳩はやめろと更に騒めく。それを横目に見ていた加賀美だったが、ようやくその意味を悟った。
 やって来たのは本物の鉄(くろがね)の船であった。その重厚でありながらもスムーズな挙動、開く扉、迎え入れた叶の姿に加賀美はただただ手を叩き大いに笑った。圧倒的な文明力の差の前に、畏怖や諦観よりもまず笑いが込み上げたのである。
 交渉の席は船上に用意されていた。勧められるがまま席に着いた加賀美は真顔に戻り船内を見回す。しかし船が動き出せばまた哄笑する他無い。岸に止めたままのAC-130を呼ぶ口笛は届かなかった。
 逃げ場など無い、圧倒的不利な状況での交渉であった。船上には2匹のティラコレオも加賀美を眺めている。叶がその気になれば加賀美は3秒と保たず噛み殺されるか、大海に叩き落とされる場であった。
 
 しかし加賀美は臆した様子を全く見せなかった。
 船を褒め、戦力を探った。今回の叶が持ち掛けた「叶と本間ひまわり以外と戦争をするならば武器を提供する」という提案に、既に承諾を決めていた。何処に銃口を向けて欲しいのかと問う様は覚悟を決め終わった者のそれであった。
 現状、守りを固めているのは渋谷ハジメのトライブである。一方の夜見れなも非常に長い島の滞在時間を誇っている。叶が示した攻撃先は渋谷であり、加賀美もそれに乗らんとした。
 そして叶は人材を要求する。幾ら叶が強大な力を持っているとは言え、この島の頂点に君臨するボスと戦うには困難があった。4人が在籍し、何れも戦闘に熱心であるアルファスレイヤーズは傭兵としては確かに魅力的であったろう。加賀美はこれも快諾した。
 叶の望みは単純であった。自らが手を下すのではなく、誰かが争うところを見たがっていた。加賀美にとっては渡りに船だった。
 
「私がお約束出来るのは、私がこの島で最も愚かに戦うということですね」
 
 加賀美の望みも単純だった。自らが戦火となること。最も愚かに争い続け、戦いを仕掛けていくこと。それは世界の敵となる宣言であり、大勢を巻き込む道化の狂言であった。
 そしてその為には武器(おもちゃ)が必要だった。故に叶の話に乗った。狂人の戯言とは思えぬ穏やかな、あまりにも軽妙な語り口であった。玩具会社の社長にとっては、さながらこの島やそこに生きる生物全てが玩具であるかのようだった。
 叶は静かにそれに賛同した。加賀美が狂った司令官にして戦士であるならば、叶は死の商人だった。今日何か持ち帰れるかと問う加賀美に対し、当然とばかりにピストルとアンキロサウルスを差し出した。手軽な武力と金属鉱石を求める加賀美にとって今まさに必要な代物であった。
 加賀美がやりたいことはいつだって面白さが100%であり、そこに善意などはない。それは叶にとっても同様だった。
 
「最後は挑んでほしいですね、僕に」
 
 鉄鋼船のみならず進歩に進歩を遂げた拠点を左舷に見せ付けて叶は語った。現在の文明度合いで考えれば圧倒的、象と蟻に匹敵する格差はあるが、今後はどうなるか分からない。今は鉄の精製にも苦労する後進国であっても、時間と人材の使い方によっては大きく成長も出来るだろう。叶はアルファスレイヤーズに期待しており、加賀美もまた最終目標として申し分の無い敵の登場に静かに喜び勇んだ。
 斯くて商談は成立し、加賀美は元の海岸で黒船から降ろされた。互いに礼を尽くした別れの後、どちらも笑顔の仮面の下にある真意を理解していた。
 これはビジネスの体を繕った蛮族の遊戯である。単なる利害では無くそこに伴う感情が一致しただけに過ぎない。加賀美は破滅するその瞬間まで無様に戦い続け、それを叶が気に入れば手助けが施されようがそうでなければ一瞥もくれずに捨てられる、そんな薄氷の上に立つような脆く儚くも美しい関係性である。
 アルファスレイヤーズが世界の敵であるならば、いずれ滅びの時が来るだろう。加賀美は当然のようにそれを予期していた。だがその振る舞いは晴々しく、本気で四皇に勝つ方法を探っていた。
 それは戦乱を齎す者として、未だ力は乏しくとも実に大きな志であった。
 
 
 
 叶との取引を境に、一気に状況は転換する。
 アンキロサウルスに端を発した安定した鉄の供給はアルファスレイヤーズキングダムの拠点に旋盤機を齎し、同時に拠点自体の拡大が進められた。外見は石造の倉庫だが銃火器の生産が行えるようになり、恐竜も増えて大幅な戦力拡充が為された。更には拠点側の屋外に一部の潜在株主待望の陣太鼓も置かれ、最早弱小国とは呼べない成長を見せていた。
 それは向かいのコーヴァス帝国も同様である。水辺に建った石造りの塔とその屋上に据えられたバリスタは加賀美にとって脅威であった。思わず豚を階段の入り口に詰める嫌がらせをする始末である。

だが同時に朗報も届いていた。イブラヒムは正式に同盟を結ぶことを決定し、システムも正常に復旧した。加賀美は単身アルゲンタヴィスに乗り帝国の塔へと降り立った。
 塔にはバリスタの他に「冥府」と記された赤い旗と2つの陣太鼓が据えられていた。イブラヒムが片方を勧めたが、異なるトライブの楽器は使用出来ないことを知らなかった。代わりに加賀美は携えていたピストルを宙へ撃ち、イブラヒムが太鼓を奏でた。祝砲とドラムの音は彼方まで響き渡り、歴史的な瞬間を知らしめた。
 水を発端とし一時は殺伐とした空気が流れながらも、領主同士が共に音楽を奏でるまでに至ったことから名付けられた同盟『太鼓の達人』の締結である。
 続いて今度はアルファスレイヤーズキングダムの領地で詳細な同盟内容の相談が行われた。通りすがりのチャイカが鳴らす太鼓の大音量に辟易しながらも、二国は共同で建築事業を行うことが定められた。
 即ち現在の両拠点の間にある崖を覆うような巨大建築物を作り、両者の行き来をしやすくすると共に防御を固めるという計画である。イブラヒムの建築技術を買い、彼が建造を、加賀美が素材収集を担うこととなり、共同チェストが配置された。
 無論アルファスレイヤーズキングダムの悲願である水道も建築されることが決定した。しかし加賀美にはその敷設より前にすることがあった。
 
 恐竜達の収容場所に置かれた門の上に2羽のアルゲンタヴィスが留まっている。
「交渉用鳩 少しお話ししませんか?」「もし交渉出来る場合はDMか家までお願いします」と名付けられた鳥達の持ち主は四皇の一角にして、まさに今後アルファスレイヤーズキングダムが戦争を起こそうとしている相手である渋谷ハジメであった。
 渋谷は鉄の城を構え専守防衛を謳う人物である。その防衛力は圧倒的であり、さしもの加賀美も真っ当な攻略は無理ではないかと笑うしかない程だった。その上、もし彼に戦う気が無いのであれば、幾ら血の気の多い加賀美と言えど攻め込む対象には出来ない。非戦闘民を巻き込まないのが加賀美の信条であった。
 彼の真意を確認する為に加賀美は渋谷の拠点へと赴いた。鉄の壁で覆われているばかりか、自動化までもが行なわれているその拠点は叶に匹敵する文明力を誇っていた。危機感を煽る聞き慣れない機械音に怯えながらも招かれるがまま内部へと進む。四方を眺めつつも反抗の気配など露も見せなかったのはそもそもその必要が無い為である。通されたのは建物深部の小部屋だった。
 だが加賀美はその過剰にも見える防御網に一縷の違和感を覚えていた。ただの野生生物相手ならばここまでの装備は不要である。もっと凶悪な敵——例えば加賀美達のような人間——を想定しているのではないかと推測していた。
 実際に加賀美と渋谷が向き合う部屋からして策略が詰まっていた。即ち扉はロックされ、加賀美の後ろにはタレットが控えていたのである。現代日本であればこの状況下で結ばされた契約は不当な物となるが、この島ではそんな法は無い。
 
 渋谷の目的は友好同盟の締結であり、同盟締結の暁には加賀美の後ろにあるタレットの提供を提示した。グローバルとローカルチャットを使いこなす渋谷に対し、加賀美の士気も一層上がる。
 締結の条件となったのは叶と同様、人手であった。一見無秩序に見えるアルファスレイヤーズの面々は、加賀美が思う以上にソロトライブにとっては有益な人材であった。”契約”を遵守する重要性については本業が代表取締役である加賀美は勿論、社会の荒波に揉まれてきた社と夢追も重々承知している。チャイカは自由人であれど事情の理解はするだろう(恭順するかはさておいて)。何れも根は真面目な人間であることを考えれば、短期雇用の対象としては十二分な性能を誇る。
 しかし加賀美は簡単に承諾が出来なかった。渋谷との関係はアルファスレイヤーズキングダム内部で情報共有が為されていない。トライブ長という肩書きは有していても、勝手に各員を巻き込む意思決定はしないと決めていた。故に加賀美個人であれば協力が可能であると正直に申し出た。
 そして加賀美に問われ、渋谷はあくまで専守防衛であることを告げた。「攻め込んで来るならば全力で相手する」という部分に、そのような無鉄砲な外敵を待っているのではという匂いを感じ取れど、タレットや銃の弾を提供された加賀美は人間として手伝わねばならぬと心に決めたのである。
 それは叶と等しく感情的とも言えよう。加賀美を踊らせ戦火を煽る叶と、加賀美と握手を交わし自らの身を護った渋谷。前者は愉悦を、後者は安寧を求めての行動であるように見えた。
 その狭間で加賀美は如何なる行動を取るべきか思案したが、選んだのは両方を取る二枚舌外交であった。最後までローカルチャットを使うことで対外的には渋谷の交渉相手だと判別されないように注意を払いつつ拠点へと帰還した。
 尚、結局は叶と、ついでに同盟相手たるイブラヒムに勘付かれる。叶からは彼以外の商人と手を組むなと釘を刺されたが何とか誤魔化し、イブラヒムには後述の水道の一件もあり渋谷との交渉内容を伝えることになる。これが今後如何なる結果を生むかはその時誰も知る由も無かった。
 
 さて、2人の武器商人との会談が済んだところで改めて振り返ろう。戦いを引き起こす原因とは何であろうか。
 加賀美の野望がその一端だが、この島に於いて直接的ないざこざの原因は水、正確には水道管である。これが問題無く引けていればもう少し長く平穏な時間は保たれていただろう。或いは加賀美達が丘上に拠点を作らなければ、そこと水辺との間にイブラヒムの建物が無ければこんな事態は起こらなかったろう。
 しかし歴史に於いて仮定は創作物としての魅力を足すか欺瞞にしかなり得ない。現実は斯くも非情である。具体的には、加賀美にはある致命的な特徴——人によっては欠点と呼ぶべき箇所があった。
 
 前述の通り、厄介な外交を終えた加賀美は意気揚々と水道管の建築を始めた。しかしそれを見たイブラヒムが猛烈な勢いでチャットを送り、遂には通話を開く。
 彼の言葉を借りるなら「具合悪い」建造物がそこにはあった。帝国の拠点横の水辺から斜めに、それから垂直に、所により直角に曲がり、また斜めにと中空に向かって延びていく水道管はあまりに自由自適が過ぎた。誰が言い出したか「日付変更線」と評された通り、無秩序に折れ曲がるラインが丘上まで続いていたのである。
 加賀美の美的センスは潜在株主の間でもこれまでに若干疑問視がされていた。配信のサムネイルは毎回異彩を放ち、戦車を造らせれば比較的真っ当なようでいてひたすら足し算が行われた結果何処か不気味の谷を感じられるデザインとなり、ブロックを積み重ねたり掘らせれば無秩序或いは大味な光景が出来上がる。
 雑・短気・飽きっぽいという性格は、対外的には丁寧で真面目な人間の顔をしている加賀美からはなかなか見えて来ないが、熟練の潜在株主ならば当然知っていた筈のものだった。従来ならば「独特のセンス」「男の子出ちゃった」という域に辛うじて収まっていた。
 だがその水道管を見て、誰かが言った。「A型殺し」。それはかつてブロックで形作られた世界での振る舞いを見て評された肩書きである。几帳面とされる血液型A型を殺していく様子は石壁造りの際も発揮されていたが、近付かなければ分からない壁とは異なり今回は遥かに大規模だった。更に島での加賀美の行動が多くの新たなリスナーを呼び込んでいた分、数多くの悲鳴が上がることとなったのである。
 ちなみに加賀美自身もA型だが効果には個人差があるようで、「それでこそ社長だ」と喝采した潜在株主も一定数存在していることを註釈しておく。
 
 真っ当な、というよりも人より優れた美的センスを持つイブラヒムもまた耐え切れなかった。仮にも先輩相手とあって何とか言葉を選びながら水道管を地面の中に這わせて隠す方法を丁寧に教授し、お手本まで見せてやった。だが加賀美はそれはそれとして、自らの水道管を、以前より使っていた奴隷が回すやつこと貯水槽へと繋げた。イブラヒムも心が折れかけながらも建設を続け、最終的に2本のパイプが繋げられた。
 二国の友情を証明する澄んだ水が蛇口から滔々と溢れ続けた。これで晴れてアルファスレイヤーズキングダムは雨を待つこと無く、何時でも拠点に居ながらにして水が飲めるようになったのだった。喉が渇いた、社クーイズ、誰の所為で水が飲めないんでしょーか?と嘆き続けていた潜在株主達もこれには大いに喜んだ。
 
 尚、この日付変更線はイブラヒムとリスナーに限らず、視察に来た叶の精神に大きなダメージを与えた。バリスタすらも恐れぬ叶に最も被害を与えた攻撃のひとつである。
 破壊したいと思わず物騒な発言する彼へ、加賀美はせめて1日だけと泣きを入れ、イブラヒムもそれを庇った。実に良い後輩である。
 そればかりかイブラヒムは翌日もその邪魔で馬鹿げたデザインのモダンアートを壊すこと無く、寧ろその形に合わせるように巨大門と周辺の建築をした。日に日に拡張され、恐竜達の居住区だけでなく掲示板や会議室まで有するその拠点は、彼が幸運だけで温泉王の名を冠したのではないという才能の表れでもあった。
 
 主にイブラヒムの尽力により、水同盟は恙無く続くように見えた。
 しかし戦乱は何時だって、この男から始まるのである。
 
 
 
 後に島の外で加賀美は語る。
 加賀美の元へは戦争を憂うリスナーからの多くの投書があったという。何もしなければ平穏に暮らせるのだから、安寧を望む民としては当然の反応であろう。また、加賀美自身を憂慮する声も多かった。
 しかし加賀美は言う。皆が杞憂と呼ぶそれは、後に自らが引き起こす故に杞憂ではない、ただの心配であると。大丈夫であると力強く断言した。小国であれど加賀美もまた王であり、民の傀儡になる素振りなど全く感じさせなかった。
 そして潜在株主の1人が杞憂の由来を語り、加賀美はそれに甚く感銘を受けた。曰く、古代中国の杞の国の民は空が堕ちて来るのではないかと日々憂いていた。それが本来起こり得ぬことを心配する成句となった。
 
「じゃあ空を堕とします」
 
 そのイマジネーションに感服しつつ、加賀美は宣言する。
 平和にうつつを抜かす者達に。戦いの味を知らぬ者達に。この島に生きる血と硝煙の香りを望む者達に、彼ら彼女らを眺めて騒ぎ立てる数千数万の者達の頭上に空を堕とそう。共に熱狂に巻き込もう。
 その道が如何に困難であれど、加賀美は止まれない。止まってはいけない。時に寄り道はしたとしても、戦乱の灯火を消してはならない。
 
 そしてその熱に浮かされてか、静かに静かに、各所で物語は進む。
 
 
 
「これサバゲだ!」「洞窟行こうぜ!」
 
 賑やかしい男共がバカンスを楽しんだ後。
 島の行末を決める『四皇会議』と——その裏で、大きな転機となるひとつの「招待」が行なわれようとしていた。
 
 
 
(続く)

小説にじさんじARK戦争渋谷ハジメイブラヒム

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