⚠️悲愛(?)注意
※「暴力統一パーティ」の事前履修推奨(ネタバレあり)
※フィクションです
※今回は特に何でもOKな人向け
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あなたと初めて出会ったのは、わたしがまだ小さかった頃のことです。
あなたもまだ旅を始めたばかりで、わたしを見付けて目を輝かせていましたね。
「見込みがある、きっと強くなる、何より武器を持っているのがいい」と言って、わたしをあなたの傍に置いてくれました。
あなたに期待されていると知って、とても嬉しく思いました。
あなたがお友達と戦うと聞いた時には、わたしはとても緊張していました。
だってお友達は皆とても強く、遥か先を歩んでいる人達です。彼ら彼女らが連れている子達に比べたら、わたしや仲間達はあまりに小さく見えました。
多くの人達が、わたし達には何も出来ないと思っていたでしょう。強い人の横に添えられただけの置物、きっと一方的な試合になる。あなたを見ていた人達だってそう思っていたかもしれません。
でもあなたは違いました。あなたは優しげに見えて、人一倍負けず嫌いですから、今回も勝つ気でいました。
だからこそ悩んで、誰を送り出すか決めきれなくて、気付けばわたしが最初にその場に立っていました。
それはただの偶然でした。他にも様々な偶然が絡み合ってあの瞬間に繋がっていたと後で聞きました。
けれど。
ワガママで恐れ多いかもしれないけれど、これは運命だったのだと、どうかそう呼ばせてください。
「ドッコラー! けたぐり!」
あなたの声の通りに、あの恐い顔をした重い重い氷を砕いた時から、わたしとあなたの旅は改めて始まったのです。
【ポケットモンスターソード 暴力統一パーティ
加賀美インダストリアル ガラル支社人事部長の独白】
それから色々なことがありました。
あなたは沢山わたしを使ってくれて、経験値を多く得たわたしはどんどん成長し、進化も出来ました。
ただの角材から鉄骨に持ち替えたわたしを見て、あなたは「素晴らしい」と喜んでくれました。わたしは足は遅いけれど筋肉でなら誰にも負けないという自信がありましたし、あなたの為ならどんな相手も恐ろしくありませんでした。
わたしがもっと強くなる為に、一度交換に出されたこともありましたね。
あなたの大切なお友達であるはかせさんという女の子は、今のわたしの姿を見た初めての人ということになります。
すぐに元の持ち主に返されるわたしに対して向けられた笑顔は、あなたが喜ぶ顔を想像したからでしょうか、わたしに頑張ってねと言ってくれていたのでしょうか。ボールの中からではよく分からなかったけれど、あなた達がとても仲が良いことは感じました。
それから改めて成長したわたしを見たあなたは、まるで子供のように笑っていました。携えた2本のコンクリート柱をペタペタ触って無邪気に喜んでいましたね。
それがただ愛おしくて、キテルグマではないけれど、思わず抱き締めたくなりました。本当にそんなことをしたらあなたは壊れてしまうから出来ないのが残念でなりません。
他にも立派に育った仲間達と共に、わたし達は各地で暴力を遂行し続けました。
わたしはいつしか加賀美インダストリアルの入社試験を任され、人事部長の地位を与えられました。
入社出来るのはわたしの攻撃を受けて生き残った者のみ。採用条件は実に分かりやすいもので、わたしは張り切ってけたぐりをし、岩を投げました。
たまに手加減や交代を命じられましたが、どんな命令にも従って来ました。
あなたとのキャンプも忘れたことはありません。
初めてのキャンプで、わたしを傍に呼んだあなたは「かわいい」と言ってくれましたね。
本当ならお世辞にもわたしはかわいい見た目ではないでしょう。それはピカチュウやポニータなどに使うべき言葉で、あなただって最初からモルペコをそう評価していたし、ヨクバリスにも(顔を見るまでは)そう言っていました。
わたしはそれらとは真逆です。鼻は赤くて大きいし、目元にクマがあって不細工だし、身体は無骨だし、戦うしか能がありません。
でもあなたはあまりに純粋に、自然にそう言ってくれて、おまけに「辛いの大丈夫かなぁ」とカレーの味付けまで気にしてくれました。
あの時のリンゴカレーはほろ苦くて少しだけ辛くてとても甘くて、幸せの味がしました。思わず満面の笑みを浮かべたわたしを見てあなたも笑ってくれて、あなたの元に来て良かったと心の底から思いました。
今でもどこかで鈴の音がすると、あなたがあのオモチャを振っているのではないかと思ってしまいます。
あなたと旅をする間、タイプ相性なんてものも特に関係ありませんでした。
あなたの言う通りにしていれば、エスパーもフェアリーも虫も叩き潰せました。幸いにも丈夫な身体を得たわたしは、弱点の技を受けても耐え切れることが多かったのです。
相手を倒す喜びよりも、あなたが喜ぶ声を背中で聞いている喜びの方が大きかったと、きっとあなたは知らないでしょう。
でもそれでいいのです。わたしとあなたは違いますから。
そう、あなたとわたしは違います。
わたしが更なる力を得てダイマックスした時、いつもは見上げていたあなたのことを初めて見下ろしました。あなたは相変わらず目を輝かせていたけれど、わたしはあなたの小ささを恐ろしく思いました。
コンクリート柱の一振りの風圧で、それどころか足を少し動かしただけで大切なあなたを吹き飛ばしたり潰してしまうのではないかと思ったのです。
けれどあのスタジアムで、わたしを見上げてあなたは言いました。
「やっぱりかわいいなぁ」と。
わたしがどんな姿になってもあなたはあなたのままでした。
わたしは泣きそうなぐらい嬉しくて、どんなビルドアップよりも力を得ました。ただ大きいだけの相手など敵ではありませんでした。
何匹もの相手を倒しました。
幾つものジムを越えました。
伝説と称される者とも戦って勝ちました。
仲間達は皆とても心強くて、悔しくもわたしが倒れたとしても誰かがフォローしてくれました。
新しい技も覚えました。レベルも上がって、どんどん強くなりました。
そしてチャンピオン戦。最後の1匹、キョダイマックスリザードン。
体力満タンの状態にも関わらず一撃で倒された時、わたしの戦いはここで終わりだと思いました。
後は後続のバンギラス——あなたのお友達のよるみさんという女の子から貰ったタマゴから孵って育った、こちらも強い子です——がトドメを刺してくれるはずでした。彼はとても硬くもあったので、相手の攻撃を受けてから倒すことなど造作も無かったはずです。
けれどあなたは瀕死のわたしを回復させました。「もう一度だけ試させてほしい」とわたしを前線に戻しました。
戦いのセオリーから考えればあり得ないことです。また返り討ちに遭って同じことを繰り返すのではと嫌な考えが一瞬だけ頭を過ぎりました。
しかしあなたの眼は真剣で切実でした。その眼を見た瞬間、わたしの憂いは全て消えました。
相手のキョダイマックスが終わり、今度はわたしが見下ろす番でした。
これまでの道程を思い返し、応援するあなたやスタジアムやもっと遠い場所から聞こえる声を聞いて、わたしの視界は少しぼやけていました。
けれど巨大な一枚岩を倒すだけの攻撃を外す訳がありませんでした。
あなたはガラルチャンピオンとなり、わたしは名実共にあなたのパーティの筆頭となりました。
暴力統一パーティ。普段のあなたからすると異質だと思えるようなポリシーだそうですが、わたしにとってはあなたを一番色濃く描く夢の形です。
暴力の化身として、あなたに人事部長あり、あなたにローブシンありと皆に言われたことはわたしの最大最高の誇りであり喜びです。
スタジアムの中央で、ガラルの頂点に立ったあなたの隣で見上げたあの空をわたしは忘れません。
それからもう少し旅をして、あなたは次の戦いに赴くことになりました。
わたしはもっと強くなる必要がありました。その為ならば何でも受け入れられました。
新たな技を習得する為、気の合わない見知らぬ男と預け屋さんに入れられても何も文句はありません。政略結婚でもよかったのです。あなたが望んだ未来に繋がるならば。
けれどわたしが現場に復帰した時、あなたの傍には別の女が居ました。技もポテンシャルも、わたしに足りないものを全て持った完璧なひとが他所から入社していました。
ダイマックスバトルの凸待ちをしながら、わたしの役目は全て終わったのだと思いました。人事部長は元人事部長となり、有能な新人が後を継ぐのだと思いました。会社の人事とはそういうものですし、戦場はシビアですから、より有能な者が生き残るのは当然のことです。
せめてもの救いは、あの男は預け屋に入れられたままでわたしはボックスに戻されることでしょうか。わたし達の気まずさを知って配慮してくれるあなたは優しくて、とても残酷な人です。
それに。
それにあなたはまだ、わたしのことを「人事部長」と呼んでくれます。新人は「室長」だそうです。彼女は期待通りの働きをしているにも関わらず、今の所昇進する見込みは無いようです。彼女にとってそれは可哀想なのか受け入れているのか、どう思っているか聞いたことはありません。
ただ、あなたのことをいっそ恨めたらどんなに良かったことでしょう。
もっと酷いことをして、決定的に心が離れるような裏切りをしてくれたらずっと楽になれたのに。
こんなことをされたら、ずっと待っていてしまうではないですか。
またあなたと一緒にワイルドエリアを走り回って強そうな相手に喧嘩を売って倒したり倒されたりして、キャンプでオモチャで遊んだりカレーを食べたりして、笑い合いたいと思ってしまうではないですか。そんな日がまた来るのではないかと、期待してしまうではないですか。
わたしとあなたは違います。
わたしはポケモンであなたはその“おや”ですから、わたしがチャンピオンであるあなたに逆らうことはありません。
わたしから何かを言うこともありません。わたしの鳴き声はあなたに言葉として通じることは無いし、きっとこの独白が届くことさえ無いでしょう。
時々でいいから思い出してほしいとか、会いに来てほしいだなんて、そんな烏滸がましいことは言いません。あなたはとても忙しくて、大切なモノも大好きなモノも沢山ある人だというのは分かっていますから。
だから、ただ待っています。
かがみさん。わたしの自慢のトレーナー、愛おしい人。
あなたに捕まえてもらえた喜びと、あの輝かしい日々を思い返しながら。
またあなたと一緒に遊べる日を、心ゆくままに暴力を振るう時をただ夢見ながら。
わたしはここで、ずっとずっと、いつまでも待っています。
いつもの後書き的感想文
「姫プ杯の社長からの交換ポケモンが人事部長の子供だったどうしよう……やだやだ人事部長が可哀想過ぎるよそれ」
「ってか人事部長ってまさかまだ預け屋さんに預けられっぱなしだっけ、だとしたらあまりに切なくないか……?!」
という杞憂から思い浮かんだお話。
再確認したら人事部長は一応現場に戻ってたし旦那は単身赴任(預けられっぱなし)だった。良かった。
でも新顔に仕事奪われたしボックス入りっぱなしだよなってことで、結局は報われない切ない話ではあるっていう。
敢えて入り口のツイートでは詳細を明かさないスタイルにしてみましたが第一印象どうだったでしょうか。「えっ何の話?」からの「えっそうくる?!」になってたら嬉しいです。
改めてざっくり動画見返してたんですが、本当にメインストーリーでの人事部長の活躍がヤバい。
社長からの信頼感も半端無いし、こんな可愛いって言われまくってたらガチ恋勢待った無しですよ。人事部長ってば女の子だし。
キャンプ(カレー)の部分だけでも見直してほしいぐらいです。(第2回(膂力/膂力)41:50〜)
もうね、ちょっとした乙女ゲーム。社長が女の子の為に気遣いながらカレー作ってくれるとか最高か。
あとダイマ人事部長に「かわいい」発言は第3回(武力/武力)の1:31:41〜。
キャンプで動きや表情が可愛いってのは皆理解も同意も出来るけど、こっちは巨大化してるだけで可愛いって言ってるので多分ガチのやつ。
モルペコとローブシンが同じ可愛いにカテゴライズされる社長の感性好きです。
あ、でも人事部長の場合は所属も違うので恋ではなく愛です。故に悲恋じゃなく悲愛。
表に出ないだけでこういう感情があったら素敵で切ないよね、という妄想でした。
暴力統一パは本当名作なんで出来れば全部見てほしい。
世界観考察、相手トレーナーやポケモンへのリスペクト、代表取締役で悪役で暴力の化身らしい言い回し、自分のポケモン達への愛などなど、言動がいちいちすごく引き込まれるんですよね。
切り抜くにしても撮れ高だらけでどこ切り取るか選定めっちゃムズそうですが人事部長軸はストーリーも追えてやりやすいかな?と思うので有識者さん宜しければ何卒お願い致します。(他力本願)
姫プ杯も楽しみだね! 次のローブシンはどんな役職になるのかな! 絶対みんな渡そうとするって知ってる!
そしてこれがまさかの書き納めだよ! 騒がしい人にお付き合いありがとうございました! また来年も宜しくお願いしまーす!!
2019/12/31 夕星